松浦酒造

まつうらしゅぞう

『獅子の里・鮮』『ししのさと・せん』

石川県加賀市山中温泉【蔵元杜氏:松浦文昭】

石川県加賀市山中温泉にある、松浦酒造は、安永元年(1772年)の創業。

山中温泉の中心街に利き酒やお土産などをお買い求めいただける直営店があり、そこから歩いて5分位のところに蔵があります。一昔前、町全体が全焼する大火があり、蔵も焼失。その教訓を生かし、蔵と直営店を別々に建てたとのことでした。また、山中温泉ではその昔、宿に内湯が無かった頃、湯治客を町の中央にある湯座屋まで案内する湯女(ゆな)がおり、彼女たちのことを「獅子」と呼んでいました。湯治客の浴衣を頭からかぶって待っている姿が獅子に似ていたため、そのように呼ばれていたそうです。

蔵を案内していただいたのは、蔵元で杜氏でもある松浦文昭さん。物腰も柔らかく、大変謙虚な方ですが、ユーモアがあって、ちょっとロマンチストな一面も(笑)。そんな松浦さんは、元々家業を継ぐつもりはなかったそうですが、大学卒業後、気持ちが一変・・・。家業を継ぐことこそが自分の運命!と決め、全国の酒蔵さんで蔵人として修行されました。その修行された蔵の中には、あの十四代の高木酒造さんが!今でも高木さんとは交流があり、「高木さんは、僕にとって酒造りにおける、“心の師匠” なんです。」と、話しておられました。

看板商品でもあり、数多くの著名人にも愛飲されている、活性清酒の『鮮』はぜひ一度飲んでください。今となっては数多く市場で目にする活性タイプの日本酒ですが、おそらくこの『鮮』がその奔りといっても過言ではありません。そんな口当たりの柔らかい上品な甘さと心地よい発泡感が特長の『鮮』ですが、シャンパンと同じ瓶内2次発酵で、出荷するまでに6ヶ月間、3~4℃の冷蔵庫で熟成させます。この3~4℃というのがミソで、あまり温度が低すぎると、酵母が死滅してしまい、逆に温度が高すぎると、酵母が働きすぎてしまうとのこと。瓶内2次発酵という、発売当初の頃はかなり珍しかった活性清酒を世に送り出すなど、大変研究熱心な松浦さん。実は酵母の培養もされており、以前はアルプス酵母などの香り系の酵母も使用されていたこともありますが、これからは香りが控えめな金沢酵母にこだわっていきたいとのことでした。その理由として挙げられるのが、松浦さんがこだわる “食中酒”としてのお酒。香りの強さは料理を邪魔すると考えておられ、例えば、十四代の高木さんは、一杯飲んで満足する酒を目指して造っておられますが、松浦さんは、料理から一歩下がって、口に運んだときに料理にそっと寄り添うようなお酒を目指して造っておられます。確かに獅子の里は、どれを飲んでもお酒が主張することなく、あくまで料理を引き立てる “名脇役的な存在”。まさに松浦さんの人柄がそのままお酒にのり移ったかのようです。また、貯蔵にもこだわっておられ、お酒は基本的に無濾過。そして純米吟醸以上は全て一回火入れの瓶燗・瓶貯蔵。高木さんに習い、瓶詰めまでの時間を短縮し、フレッシュ感と少しガス感を残すことで酸化しにくいお酒になるそうです。確かに近年の獅子の里は、後ギレの良さに、プラス!フレッシュな心地よいお米の旨みが感じられるお酒になっています。

蔵の隅々から、仕込み水に使っている裏山の湧水場まで、丁寧に丁寧に時間をかけて案内してくださった松浦さん、本当に本当にありがとうございました。